「Smoke」はニューヨークはマンハッタン島にまだツインタワーがあった頃に作られた映画だ。名作だと思う。初めて観たのが1996年だった。当時、映画評論家のおすぎさんがラジオの文化放送で大絶賛していたのをたまたま聞いて、観に行こう!と思い立ったが群馬で上映している映画館がなく、かと言って都内まで出かけるという発想がなかったので見逃してしまった。
その後、レンタルビデオ屋で借りてみた。もう何十回も観ている。
先日もまた観た。
何度観てもすごく面白い。何が面白いかというと、僕自身が歳を重ねるごとに映画の見え方が変わっていくことに気づくことだ。この映画は人間を描いている。脚本も素晴らしいが役者さんたちの演技も素晴らしく、とても深く人間の侘び寂びを描いている。
そして、この映画の舞台となっているアメリカという国の変化を見るのも面白い。
僕にとっていちばん輝いていたアメリカはマイケルジャクソンの絶頂期であり、映画バックトゥザフューチャーが流行した80sである。この映画はまだその名残がある1995年だから、いわゆる古き良き時代だ。ファッ70ションも街中を走っている車もどことなくダサい。50-70sはデザインが洗練されているのに、なぜだか80sは野暮ったい。
だからこそ懐かしいし見ていて心が落ち着く。
登場人物たちは皆、かなりのクセがあって人間臭いし、映画のタイトル通り、皆、タバコをぷかぷかとふかす。タバコは嫌いだがこの映画に出てくるタバコは不思議と好感が持ててしまう。
ハーヴェイ・カイテル演じる煙草屋のおやじ、ウィリアム・ハート演じる妻を亡くした作家、強盗事件に巻き込まれた少年と失踪していた父親、実の娘に会ってくれと突如現れた主人公の元カノとあばずれ娘..とにかくキャラが濃い。そして皆、一生懸命に生きている。
そんな映画のなかで唯一爽やかな存在として描かれている本屋の女性店員も魅力的だ。
ブルックリンの街角にある煙草屋のおやじは、毎朝8時ちょうどに店の前でカメラのシャッターを押す。この時代なので当然フィルムカメラ。バドワイザーを飲みながら現像した写真をアルバムに貼り付けていく。毎朝かかさず4000枚を超えている。その行為にとても惹かれてしまう。
僕も毎日欠かさずやっているものはあるがこうやって形に残ることは素晴らしいと思う。
かと言って、煙草屋のおやじのアルバムが人の役に立つわけでもなく、あくまで自己満足である。
でも、それでいいのだと思う。
打ち込める仕事と、心を許せる友人と、お気に入りの酒とタバコがあれば人生は豊かなのだ。
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