地味すぎてジワる映画「その日、カレーライスができるまで」

リリー・フランキーさんの味わい深さがこれでもかといくらい、画面からみじみ出てきた。

この映画の原案と脚本はテレビドラマ「半沢直樹」で脚本を書いた金沢知樹さん。じめじめと降り続く雨と薄暗いアパートでラジオから流れる吉田照美の声..死んでしまったひとり息子への強い念と過去に縛られた男をリリー・フランキーさんが見事に演じている。印象的だったのはひとり暮らしなのにとても子綺麗で質素な部屋と3日前からカレーを作るという妙なこだわりは、被害者意識のなかで生きていながらも、暮らしを大切にしている様子がうかがえる。

ひとり芝居の映画ってだけでも刺激的であるが、ストーリーは本当に地味で暗い。

時には重い。

だけれども、集中して最後まで観れたのは主人公がつくるカレーのようにこの映画も丁寧に作られているからだろう。ストーリーは人間の弱さと情けなさが容赦なく描かれているので、自分と比較したり主人公と似たようなダメなところをほじくり返したりしながらこの映画を観ることになる。

気になったことは、主人公は何の仕事をしているのだろう?

明確に描かれてはいないので観る側が想像することなる。都会の安いアパートが舞台なので裕福ではなさそうだし、しかし不思議と品がある。そんな想像を楽しみながら物語は終盤にさしかかっていき、淡々と次の展開を迎える。

〜あらすじ〜

どしゃぶりの雨のある日、とあるアパートの一室。くたびれた男が台所に立つ。毎年恒例、三日後の妻の誕生日に食べる特製カレーを仕込んでいるのだ。 愛聴するラジオ番組ではリスナーの「マル秘テクニック」のメール投稿を募集している。すると男はガラケーを手に取り、コンロでぐつぐつと音をたてる特別な手料理についてメールで綴り始める。その横では、幼くして亡くなった息子の笑顔の写真が父の様子を見守っている…。

日本の一家団欒の象徴ともいえる家庭の味=カレーライスと、電波を通じて誰かと誰かを繋いでくれるラジオが、ひとりの人生、ひとつの家族にもたらすものとは? 誰もが大切な何かを思い出す、あたたかい奇跡の物語。

映画というのは起伏が激しい感情の動きを楽しむものだが、この映画は悲嘆に暮れた生活をしながらも感情を垂れ流しすることなく、かといって痩せ我慢をしているわけでなく、とても大人で成熟した人たちが作ったことが伺える。

日本の映画もテレビドラマも、良くも悪くも漫画の影響を受けていて、わかりやすい感情表現が多い。別の見方をすると日本人全体が幼児化していて、ダイレクトに感情に訴えかけないと商売にならないとも言える。半沢直樹を描いた人が、この映画を描いたことが僕としては日本の希望に思える。

この映画のように淡々とした面白さが受け入れられるのは極一部だと思うが、興行収入に捉われない作品を作って欲しいと願う。
 

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