
映画「麦子さんと」が面白くて15回以上は観ている。もの凄くいい映画だ。
個人的には日本映画を代表してもいいくらい秀逸な内容だ。とは言え、世間ではそんなに騒がれたことがなかった。なのに、無性に定期的に観たくなってしまう映画だ。2013年の作品で、映画館で見損ねてしまったこともあり信太郎さんの家の近くのTSUTAYAでDVDをレンタルして初めて観たのが2014年だったと思う。ネット配信が無かった時代だ。
主演は堀北真希ちゃんで、アニメイトでバイトをしながら声優を目指している麦子さんを演じている。麦子さんは僕たちと同じようにいろいろと訳ありな人生なのだが、とにかくテンションが低い。ふつうの映画だとどんなに地味な性格でもどこかキラキラした要素があるがそれもまったく無い。内向的で気難しい性格を堀北真希ちゃんが見事なまでに演じている。
一般的な堀北真希ちゃんのイメージは、透明感がある国民的女優だが、麦子さんはまったく違う。
テレビドラマで見慣れた人はそのギャップに驚くかもしれないが、僕個人としては麦子さん=堀北真希ちゃんと思えるくらいそのまんまな感じが良い。地味すぎてまったく花がないキャラクター設定だが、それが逆に彼女の魅力を引き出している。特技もないし特別な能力もないし、際立った性格でもない、どこにでもあるコンビニやスーパーでバイトしていそうな女の子が麦子さんだ。
一生懸命だが、何かを引きずって不器用に生きている。
親が離婚をして母親がしばらく姿を消していたという設定もあってか、人に対して斜に構えている。でも、そんな役柄が妙にリアリティがあるし人間臭くて魅力的だ。ストーリーは、声優を目指す地味な女の子が突然現れた母親と一緒に暮らすことになったが、なかなか素直になれずにいると突然病気で母は死んでしまう。お葬式を終え納骨のために母の地元に遺骨を持って帰る…という内容だ。

一緒に暮らしていた兄(松田龍平)は、かなりテキトーだがテキトーなりの芯があって妹思いだ。
母親(余貴美子)も麦子さん以上に不器用な生き方をしてきた。僕ら人間の弱いところ、みじめなところをしっかり描いている映画で、それも押し付けがましくなくストーリーに溶け込んでいて上質な物語だ。最近の映画は、ストーリーが漫画っぽくなった作品が多く、それはそれで面白いが小津安二郎や山田洋次監督の映画が好きな僕からするとしっくりとこない。
この映画は、ふつうの日本人の暮らしなかで物語は進んでいく。
舞台は東京と、架空の片田舎だ。山梨県都留市が舞台だったようだが劇中は海沿いを散歩するシーンがあったのでこの映画を観た人の多くに響くように日本の故郷を作り上げたのだと思う。都留市はまだ行ったことがない場所で地図でいうと大月市の近くだ。そもそもだが、都留市という市が山梨にあることを今回初めて知った。山梨県民以外で都留市を知っている人はおそらく稀だと思う。僕が住んでいる埼玉県日高市は埼玉県民ですら知らない人がいると言われているので都留市には親近感がある。駅前に何もなかったり小高い山がある風景は我が街と同じだ。
駅前には何もないし、店は17時で閉まってしまうがなぜか居心地がいい。それは、地域の人々がやたらと関わってくるからで都会育ちの麦子さんもそれを体験する。旅館の親子、タクシードライバー、母親の知り合いたち、泊めてくれたミチルさんと心が通った交流をする麦子さんは、いつしかもっと此処にいてもいいと思えるくらい氣に入ってしまう。
とはいえ、みんなそれぞれ何かしらの訳ありな人生を送っている。

麦子さんのように親の不仲や離婚は多くの人が体験をしている、事情は様々だろうけど。
旦那に愛想をつかした母親彩子(さいこ)は、子供を捨てて出ていってしまいその後しばらくは姿を見せることはなかった。しかし、彩子はパートで稼いだなかからずっと月15万円を兄に送金していた。パート暮らしで自分の生活の他に15万円を毎月送るって大きな愛情がないとできることじゃない。ところが、兄はそのお金のことを妹に言わず9万円の家賃と食費を少しだけ出して好きなパチンコや趣味に使ってしまっていた。兄が家賃を払ってくれていたと思い込んでいた麦子さんだが母親が現れるとすぐに嘘がバレてしまう。兄なりに頑張っていたことを見ていた麦子さんは小言だけで許した..
そんなやりとりがとても面白い。
麦子さんが四十九日の納骨のために母親の墓がある地元に帰った時に旅館に宿泊をした際に、旅館の息子(岡山天音)が麻雀に誘われたから5千円を貸してくれと母親にせがむ場面があった。ダメ人間の描き方が実にうまいし岡山くんの演技も素晴らしい。結婚できずに週5でボーリングに通っているタクシードライバー(温水洋一)とかどちらかというと日陰で生きている人々の設定と演技が最高である。
この映画は、母親との関係性を通して麦子さんが大人になる過程をテーマにしている。どんなカタチであれ誰もが必ず体験する母親の死、そしてお葬式、納骨という悲しくも儚なく流れていく時間。僕自身も体験はしたが、人生最大の修行とも言える日々だった。
母親に対して色んな思いを抱えたまま本人に伝えられないうちに忽然とこの世からいなくなったわけだから、複雑に絡まった気持ちのまま遺骨を抱いて母の地元へ行く麦子さん。駅から乗ったタクシーから騒動が始まるわけだが、出会う人々によって今まで知らなかった母親の姿が少しずつ見えてくる。本当は母親にもっと甘えたかっただろうし、親孝行もしたかったと思うが、それとは逆に酷いことを言ったり駄々をこねて困らせてしまった。母親が大切にしていた目覚まし時計を麦子さんが投げて壊してしまった。
僕も中学生の頃、理由は忘れたがものすごく子供じみたことを言って勝手に怒って母親に怒りを吐き出したことがある。その時に、目覚まし時計を投げてしまったことを思い出す。謝ることもしないクソガキな僕だった。本当に申し訳ないことをしたし最低なことをしてしまった。
麦子さんを観ながらそんなことを思い出した..ただただ反省するばかりだ。
2016年に結婚をして引退した堀北真希ちゃんも現在は2人の子供を持つ母親になったらしい。
当時は映画にテレビドラマ、CMに舞台とすごい量の仕事をしていた時期。個人的にはあのタイミングで芸能界を引退して正解だったと思う。潔い幕引きだったし「三丁目の夕日」「梅ちゃん先生」「麦子さんと」この三作品は100年後も多くの人に愛されるだろう。
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