西武と東急・小田急によるリゾート開発の争いを描いた映画「箱根山」が面白い。

箱根山

黒澤明監督の映画が観たくてAmazonプライムで東宝のサブスクに登録した。

念願だった「生きる」を観ることができて大満足をしているとパソコンの画面に他の東宝映画がおすすめで表示される。せっかくなので七人の侍も観ようと思っていたし他に気になる映画がないか?と確認をしていると、気になるタイトルが表示された。それが「箱根山」だ。1962年(昭和37年)に制作されたモノクロ映画で、主演は加山雄三さんと星由里子さん。

ふたりとも東宝の若手スターで、僕が好きな若大将シリーズでもお馴染みである。

加山雄三さんは僕が大尊敬する人でもあるから、これは観なければ!ということで再生ボタンをクリック。撮影された昭和36年の雰囲気にグイグイと引き込まれていった。当時25歳だった加山さんは、俳優として活動を開始してから2年も経っていない頃の作品だ。箱根の老舗旅館で働く青年を演じている。

この映画のあらすじは..

観光開発の波が押し寄せる箱根の温泉街・足刈。ここには、150年もの間先祖代々激しく対立し合ってきた二軒の老舗旅館「玉屋」と「若松屋」があった。両家の不仲に加え、背景には大手観光資本同士による過酷な箱根の覇権争い(箱根山戦争)が影を落としていた。

そんな中、「若松屋」の一人娘である明日子(星由里子)の家庭教師を、「玉屋」の跡取りとして期待される青年・勝又乙夫(加山雄三)が引き受けることになる。親たちの意地や古い因習に囚われない二人は、関わりを深めるうちに次第に惹かれ合っていく。

ある日、玉屋で火災が発生する。乙夫は倒れた養母の里を救い出し、明日子はショックを受けた里に優しく寄り添う。この事件をきっかけに、意地を張り合っていた両家の若者たちの距離はさらに縮まる。一方で、火災に乗じて大資本が復興融資を持ちかけてくる様子に、乙夫は地元の老舗が巨大資本に飲み込まれていく危機感を深めていく。

湖水祭の夜、乙夫と明日子は将来の夢を語り合い、10年後の再会と結婚を誓う。二人が結ばれることで両家の長年の確執を終わらせ、二つの旅館を統合して近代的なホテルを創るという構想だった。乙夫は観光事業の知識を深めるべく東京の大手事業家のもとへ身を投じることを決め、明日子もまた一人前の経営者となるべく勉強に励むことを約束する。

乙夫が東京へ旅立った直後、玉屋の敷地から新たな温泉が吹き出し、里は再び活気を取り戻す。表面上は相変わらず対立を続ける両家だったが、若き二人は箱根の新しい未来を見据えてそれぞれの道を歩み始めるのだった。

勝又青年は、聡明で実直でハツラツとした性格。加山さんの代名詞「若大将」そのものだ。

昭和30年代は、日活の大スター石原裕次郎が演じる青年役も同じように凛とした性格で、どうやらこのようなキャラクターが好まれたらしい。令和の時代に見ても若大将や裕次郎さんが演じるキャラクターは清々しくてカッコいいし憧れる人物像だ。

この映画のヒロイン的な役になる明日子を演じる星由里子さんは当時18歳。

昭和33年に東宝のオーディションからデビューをして、瞬く間に人気を獲得すると数々の映画に出演。若大将シリーズでは澄ちゃん役でおなじみだ。明日子は、気が強くて生意気な女子高生だが、星由里子さんが演じることで可憐なだけでなく、女性の強さや純粋さが際立つ。企業間の紛争を描いたこの映画は、当時の名優やベテラン俳優が多数出演している。そのなかで、星由里子さんは一輪の花として最後まで目を離すことができなくなっている。

勝又青年が働く旅館とは長年のライバル関係にある旅館の娘、明日子は箱根の山奥から都会へ出たいと言っていた。旅館の手伝いもしない。しかし、勝又青年や関わる人たちとの交流のなかで、この地に留まっていずれ旅館を継ぐことを決意する。その、成長過程が素晴らしかった。

箱根山

この映画は、同名の小説が原作(獅子文六)だ。

箱根周辺で実際に起きていたリゾート開発にまつわる企業間のいざこざを喜劇仕立てで描いた作品だ。当時のことを調べてみると、箱根は1900年初頭に最初の観光開発が行われた。大規模な開発を仕掛けたのは箱根土地という会社(現在の西武HD)だ。堤康次郎(西武ライオンズの元オーナー堤義明の父)が、箱根をリゾート地にして儲けるためるため交通網の整備事業を展開。さらに小田急と東急も開発競争に参入し、今では考えられないような紛争に発展。数々の訴訟と、官民を巻き込んだ騒動になった。

その結果、ドタバタはしたが熾烈な開発競争によって箱根の観光事業が発展したらしい。

1960年代の終わりになって、ようやくこの抗争も集結することになるが、この映画が作られた当時はケンカの真っ只中だった。そういえば、今僕が住んでいる場所は東急が開発した大型分譲地で、隣接して西武が開発した横手台団地がある。

最寄駅は西武池袋線の高麗駅だが、東急が開発した武蔵台のほうが近いし、かなり離れて横手台がある。この一帯は1970代後半から1990年代にかけて分譲された。すぐ近くには堤義明が自ら設計したゴルフ場もあり、奥武蔵の入り口に位置する高麗エリアの開発に西武グループが力を入れていたことがわかる。

箱根山

話を映画に戻そう。この映画には昭和を代表する名優たちが多く出演している。

森繁久彌、東山千栄子、三宅邦子、東野英治郎、有島一郎など錚々たる俳優陣だ。喜劇映画で、ノリは軽いのに重厚な演技をする役者さんたちによって質の高い映画になっている。東野英治郎は、水戸黄門で有名だが、以前このブログでも紹介した「堂々たる人生」にも出演しており実業界の裏の親分を名演している。実に魅力的な俳優だった。

加山雄三が演じる勝又青年が働いている旅館も本当に素晴らしい。もし、今もこのような旅館が箱根に残っていたらさぞかし繁盛しただろう。西洋的なホテルが乱立する昨今、日本建築とその空間は日に日に価値が高まっている。しかし、日本人がその価値に気づくのは昭和が終わってからだ。残念なことに大きな経済的な価値を生み出す古い建築物は次々に壊され、観光地の宿は味気ない建物になってしまった。

乗り物も看板のデザインも、そして映画もこの時代が日本にとって最盛期だったと思う。

その意味で、当時の映画作品を現在のデジタルリマスタリング技術によって蘇らせる試みがもっと盛んになって欲しい。この時代の映画は日本の財産だ。世界的には、日本アニメが流通しているが、昭和中期の映画作品は人類にとって普遍的な面白さがある。黒澤明と小津安二郎、寅さんだけでなく、箱根山のような作品も配信サービスで充実させて欲しいと思う。

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